夏休みの夜に巣食う“性被害” SNSで釣られキャバ嬢体験、気づいたらデリヘル嬢に…
夏休みも半ばを迎え、子供たちもどこかで気が緩みがちになりやすい時期。そうした少女らを狙った性被害が後を絶たない。一度トラブルに巻き込まれると、後々まで心身にダメージを受けることにもなる。だが、注意していても「被害のわなに陥る入り口はあらゆるところにある」と専門家。その実態は限りなく巧妙だ。(兼松康)
■“友達”も油断はできない
数年前の夏、高校1年だったサエ(仮名、以下同)は親友のシオリと地方から東京へ4泊5日の予定で遊びに行った。往復はバスの車中泊だが、その間の2泊はスマートフォンのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で知り合った同世代の友達、マナミに泊めてもらうことにした。ホテルも探したが、お盆シーズンでどこもいっぱい。母親には親友と行くことで許可をもらった。
上京し、マナミの家を訪ねたところ玄関から出てきたのはやや年上の女性。「マナミの姉」と名乗り、本人は急用で出かけ帰ってこないが、泊まるのは問題ないと招き入れられた。この後、サエは巧妙なわなにはまり、性風俗で働くことに…。
こんな性被害の相談が、東京・歌舞伎町に拠点を置く公益社団法人「日本駆け込み寺」に舞い込んでくる。同法人の代表理事、玄秀盛さんによると、こうした少女の性被害のほか、ドメスティックバイオレンス(DV)や引きこもり、虐待、ストーカーなどさまざまな問題を抱えた人の相談を受け、サポートしている。相談件数は1日に10件以上、このうち3割程度は女性の性被害に関する相談だ。
この事例のように地方から遊びで上京し、日帰りしないでトラブルに巻き込まれるというのは、夏休みなどにはよくあるケース。その場合、「宿泊場所をしっかり確認できるかどうかが、まずは大事」と玄さんは指摘。「友達のところに泊まる、しかも女の子の友達と一緒に上京して、というだけで安心してはダメ」と警鐘を鳴らす。
事例の“この後”は…。
「姉」は派手な格好で、「キャバクラで働いている」という。姉はサエとシオリを渋谷に誘った。「ネイルアートに興味あるなら、いいお店がある。私のは2万円だけど、そんなに払わなくても結構きれいな爪にできるよ」。2人は、マナミの家に来る前、テーマパークでお金を使い、残りは少なかった。
「お金ないの? ちょっとバイトしてみる? うちのキャバクラ、体験入店とかあるから。1時間で5千円ぐらいもらえるよ。怖いことなんて何もないよ」
誘いに乗って2人は体験入店した。もらえたお金を見て、2人は「やってよかった」と思った。
■体験入店から徐々にエスカレート
姉は店を出て、今度はカラオケに2人を連れて行った。「お客さんがいるんだけど、一緒にカラオケするだけで、お金をくれるみたい」と、2人を別々の部屋に行かせた。サエの行った部屋には父親ぐらいの年齢の男がいた。「胸を見せて」としつこく迫り、お金を上乗せすると懇願されて、少しだけ胸をはだけた。触らせればさらにお金をあげると言われ、「早く終わらないかな」と思いつつ、必死に我慢した。男は思ったより多くの金を出した。罪悪感はあったが、普段、手にしたことのないような大金を手にすると、「すごい」とも感じた。
「ごめんね、変なことされなかった?」と姉に聞かれたが、2人は「大丈夫」と答えた。今度は友達という1人の男がサエとシオリに紹介された。ホストと名乗るその男は、年上だが世代も近く見た目も爽やかな感じと2人は思った。サエは嫌な思いをした後だけに、魅力を感じた。男は「ダンスで芸能界を目指してるんだ」と話し、養成所に通うための授業料稼ぎにホストをやっているという。“タレントの卵”と知り合えたことは2人を舞い上がらせた。
「おばさんの相手なんて嫌だけど、お金がいるから。たまには君たちみたいな子と普通に遊んだりしたいよ」。2人は未成年ながら男が勤める店に行った。「今日は知り合えたサービスだから」と勧められ、少しお酒も飲んだ。サエは男に耳元で「とってもかわいいよ、今度は2人で会いたいな」とささやかれた。
シオリに気付かれないように、メルアドの交換もした。何度か会ううちに、サエはホストの男から「レッスン代がいくらあっても足りないよ。もう少し頑張ればチャンスも見えてくるのに」と金を求められるようになった。何度か金を渡したが、それでも続く。嫌気が差し、「もう会わない」と告げると、最初のときから何度か通った男のホストクラブの料金を請求された。法外な額が記してあった。
ホストクラブの関係者というこわもての男らも、その頃から現れるようになった。「手っ取り早く返したいなら、仕事を紹介する」といわれた。誰にも相談などできず、紹介された仕事をすることにした。それがデリヘル嬢だった。サエはいや応なく風俗の道を歩まなくてはならなくなった。
■風俗嬢としてものになるか…
ここ最近のSNSの発達と普及で、特に中高生などは、実際には会ったことのない人とも“友達”として認識しがちだという。しかし、「そこには“仕込み”が入っていることも多々ある」と玄さんは話す。
例えば、SNS上で友達になった相手は、風俗業界への手引きをするための“サクラ”に過ぎないケースも実際にある。「この『マナミ』というのはサクラで、実在するかどうかも怪しい。その『姉』が風俗の世界への案内人になる」という。
カラオケなどの客で、我慢を強いる嫌な思いをさせておき、次に好感の持てるホストが出てくる…といったストーリーも綿密に仕立てられている。「ホストは優しい感じで話をしてくるが、その際も風俗嬢としてものになるかどうかの値踏みをしている」という。さまざまな登場人物はすべて、少女らが風俗嬢になれるかどうかを探るための“まき餌”というわけだ。
玄さんは「保護者としては、その友達が親御さんと一緒に本当に住んでいるのかなど、うるさいぐらいに干渉した方がいい」。さらに、今は携帯電話で直接本人と手軽に連絡が取れる時代ではあるが、「何かあったときのために、事前連絡での確認や事後のお礼の手紙を出すことも踏まえ、友達の家の住所や電話番号を聞くことは必須」と話す。
また、この事例のように仲の良い友達と一緒にという点は、本人や親が安心できる材料となりそうだが、実際には「その安心感が危ない」と玄さんは話す。「一人だと警戒感も強くなる。『友達と一緒だから』という安心感が働く方が、あらゆるところにあるわなに落ちてしまいやすい」ためだ。
「東京近郊からでも、普段行ったことのない渋谷などの都心部などに遊びに行けば、知らない土地に行くのと変わらない。複数の友人で遊びに行っても、中途半端に知っている場所だから、という安心感もあり、かえって危ないケースもある」といい、普段訪れない繁華街に遊びに行く際には、「どこへ行くのかをきちんと保護者が把握しておく必要がある」と玄さんは繰り返す。
■契約書をよく読むと…
また、こんな事例もある。
路上でスカウトされた18歳のフリーター、ユキエは事務所に所属しようと思った。日頃、怪しいスカウトには注意していたが、そのときの相手はきちんと名刺も出してくれた。
「大スターを目指すなら別だけど、今は君みたいな親近感のある子の方が求められているよ」
事務所でそう説明を受けた。以前からタレントになることが夢のひとつだった。歌、ダンス、芝居などさまざまなレッスンを受けさせてくれるのも魅力に感じた。レッスンで学んだことをいつか生かそう、それくらいの気持ちで事務所所属登録の契約書に自分の名前を書き込んだ。
数日かけて、レッスンみたいなことをひと通り受けた。思ったよりも厳しくなく拍子抜けだったが、こんなものかと自分を納得させた。
その後、「最初の仕事。グラビアの撮影だよ」と言われて、行ったスタジオで渡されたのは、極小のビキニだった。
「これ、ちょっと出ちゃいそうで…」。さすがに無理だと思い、仕事を断ろうとしたところ、「もし帰るつもりなら、ここにいるスタッフの手当て、それにこれまでのレッスン代も、全て払ってからにしてくれ」と撮影側のスタッフにすごまれた。
一緒についてきた事務所側の人間も「これは仕事の契約で決まっているんだよ。できないというなら、違約金を払わなくちゃならなくなる」と言う。その手に持っている書類は、この間、自分が名前を書き込んだものだった。あれは事務所登録の契約書だったはず。だが、その書類をよく読むと、グラビアやアダルトビデオ撮影という文字も書いてあった。
結局、その極小ビキニを着てみたが、それも少しの間だけ。しばらくするとカメラやビデオカメラの前で、それすら脱がされていた。ユキエに男性の経験がないわけではなかったが、大勢の人の前でどうすることもできず、ただ、言われるままにされる自分がいた。友人の知り合いらを通じて、「日本駆け込み寺」に相談し、契約違反がないこと、ビデオの発売などをしないことなどを確認させ、自分のあられもない姿が世に出ることは防げたが、負った心の傷は大きかった。
■勇気出して早めの相談を
このビデオ撮影に至った事例でも、ユキエがもともと危ないことをしようと思っていたわけではないが、そうした中でも性被害につながるような危険な目に遭うことはある。特に夏休みは、着るものも薄くなり、開放的になりがち。だからこそ薄れがちな警戒心を強める必要がある。
性被害に遭いやすい時期ともいえるが、「もし、こうした被害にあっても、本人には後ろめたさもあり、1度だけの過ちであっても相談しづらい」のが実情だ。前述のサエとは別のデリヘル嬢になった女性のケースでは、その2人目の客が、女性の身の上話をかわいそうに思い、「日本駆け込み寺」を紹介して相談、事態が発覚した。このケースでも法外な借金などが女性になく、デリヘル嬢として稼ぐ必要がないことを確認し、女性を故郷の両親のもとへ帰らせたという。
特に「親には相談しづらい」と訴える少女らも多いが、「両親から責められることになると、子供も逃げ場がなくなってしまうことがある。その場合、事情を両親に説明した上で、母親だけが細部までを知り、父親は概要しか知らないかのように対処してもらうなどの方法を取ることもある」という。
ただ、長引かせれば、被害がどんどん深まる可能性がある。「大人でさえ、夜の世界の仕組みや出来事が完全に分かっている人は少ない」中で、こうした事情にも精通する「日本駆け込み寺」などに「早めに相談してほしい」と玄さんは訴えている。
警察庁のまとめによると、出会い系以外の交流サイトを使って性犯罪などの被害に遭った18歳未満の子供は、昨年1年で前年比128人増の1421人となり、統計を取り始めた平成20年以降で最多だった。LINEなどの無料通信アプリのIDを交換できるインターネット掲示板を通じた被害者は、同87人増の439人だった。
詐欺なのかどうか、見抜く方法を伝えないとこういうのは解決しないと思うけど
境遇的に難しいんだろうなぁ…
親って大事ですね。